【色覚理論】色を知覚する『ヤング=ヘルムホルツの三色説』『ヘリングの四原色(反対色)説』そして『段階説』について

「わー!桜!キレイ!」と思ったのも束の間、みるみる春へ夏へと向かって刻一刻と時が刻まれ、ふと地面から可愛らしいタンポポが姿を現しているかと思えば、アジサイが美しく咲き誇っていることに気づかされます。淡いピンク色の桜から明るく黄色いタンポポ、紫や青のアジサイへと、季節ごとに咲く花の美しい色が心に潤いを与えてくれます。

光・色の影響を受ける心

色を楽しめる世界に生まれて、色の影響を受け、気分に変化が生じた経験は多くの方が感じたことのある感覚だと思います。
たとえば、晴れた日には気分もはればれと良く、曇の日は何だか少し心の中も雲がかかったようなモヤモヤ気分になったりと、空模様がそのまま心模様となり、天候の違いだけで、その日の気分まで変わるといった経験、少なからずあるのではないでしょうか?

大自然の緑の中で気分がリフレッシュできたり、美しい色のアート作品に感動したり、好きな色の服を着てテンションが上がったり、カラフルなステーショナリーにモチベーションが上がってみたり。色の影響はとても大きいものです。

色は、人の目に見える光です。可視できる光のため可視光線といいますが、植物が日差しを浴びて成長するように、わたしたち人間も光を受けて、すくすくと成長し、イキイキと心の健やかさを保つことができるのです。色が心に影響を与えるのは、色が光だからこそです。色は特定の光の周波数を持つため、その周波数の違いによって、それぞれの色として認識されます。

では、どうして、そんな認識ができるのか?それは、人間には光をキャッチする光受容器(錐体)があるからです。
今日は、この錐体、赤錐体・緑錐体・青錐体といった3つの受容器により、色の違いを見事に見分けていることについて、そして、さらなる色を知覚する展開についてお伝えしていきたいと思います。

ヤング=ヘルムホルツの三色説

人間の目は、どのように色を感知しているのかご存知でしょうか?

木からりんごの実が落ちるのを見て「万有引力の法則」を発見したことで有名なニュートンは、自然哲学者であり、数学者、物理学者、天文学者、神学者ですが、そのニュートンは、人間の目の中には、可視光(色)を処理する多くの光受容器があると考えていました。
しかし、多くの光受容器があるのではなく、3つの受容器によってさまざまな「色を見る」と考えたのが、ヤング&ヘルムホルツの説です。

イギリスの医師で物理学者だったトマス・ヤング(Thomas Young・1773年―1829年)は目についての研究を積極的に行い、色覚の三原色説を1801年に発表しました。
その後、ヤングのこの説をドイツの生理学者ヘルマン・フォン・ヘルムホルツ(本名:Hermann Ludwig Ferdinand von Helmholtz・1821年―1894年)が発展させ、1868年に完成させた色覚理論が、ヤング=ヘルムホルツの三色説です。

ヤング=ヘルムホルツの三色説は光の三原色(赤・緑・青)の3種の色光を混色することで、あらゆる色を再現できるという物理的な原理を根拠としたものでした。この原理を応用したのがカラーフィルムやカラーテレビやパソコンの液晶ディスプレイなどです(光の三原色についての詳細はこちらのブログ記事『「色の三原色」と「光の三原色」〜混色による色の成り立ち〜』をご覧ください)。

視神経である錐体(すいたい)には、赤錐体・緑錐体・青錐体があり、これらはまさしく光の三原色(赤・緑・青)をそれぞれキャッチし、色を見分けるセンサーの働きをしています(色覚障害はこの3種の受容器のうち1つ以上に問題が生じることで起こります)。

人間の網膜には光に反応する視細胞が片目だけで1億個以上も存在しており、赤は長波長(Long)、緑は中波長(Medium)、青は短波長(Short)、このLong、Medium、Shortの頭文字から、赤を知覚する錐体を「L錐体」、緑を知覚する錐体を「M錐体」、青を知覚する錐体を「S錐体」とも呼び、これらの錐体によって光の処理が行われ、光の刺激は網膜によってそれぞれ電気信号となって視神経を通って脳に伝達されています。

ちなみに、光受容細胞である視細胞には錐体細胞ともう一つ、桿体(かんたい)という細胞があり、錐体細胞が色の違いを見分け、桿体細胞は明暗を認識する役割を担っています。

三原色から四原色説へ

ヤング=ヘルムホルツの三色説では、光の三原色理論が色の知覚と関わりのあることはわかったのですが、補色の残像や色相対比における説明は出来ませんでした。

補色の残像とは、たとえば白い紙の上に描かれた赤い丸を、できるだけまばたきをせずにじっと30秒以上見つめたあとで、紙の白い部分を見たり、あるいは目を閉じたりすると、その白い紙の上やまぶたの裏に補色である緑の残像が見える現象です。

本来、赤を見ているときは赤錐体だけが働いています。緑のものを見ていない以上、緑錐体は働いていないと捉えるものですが、赤い丸を見た後に緑が見えるこの現象は、ヤング=ヘルムホルツの三色説では説明がつかないということになります。

そこで、有力な色感覚として、色が「赤」と「緑」と「黄色」と「青」の感覚のうちの1つ、ないしは2つから成り立っているのではないかということに気づいたのが、ドイツの生理学者エヴァルト・ヘリング(本名:Karl Ewald Konstantin Hering・1834年―1918年)でした。

ヘリングは赤、緑、黄色、青の4色を色の基本感覚として、「赤と緑」、「黄と青」は同時に存在しない反対色(補色)で、各々に対応する出力の度合いによって、さまざまな色感覚が生まれると説きました。

なぜなら、黄色は、ヤング=ヘルムホルツの三色説では赤と緑の出力合成(混色)で出来る色でしたが、実際に黄色のみ観察した際、黄色からは赤と緑の色みを感じ取ることはできないため、ヘリングは黄色も原色である、と考えたのです。ここがヘルムホルツの三色説と大きく異なる点です。
色の意味からしても補色同士は連動していますから、赤と緑がひとつのセットとして考えられるこの捉え方は非常に興味深いものがあります。

上記の赤、緑、黄色、青の4色を「ヘリングの四原色説」または「ヘリングの反対色説」といいます。このヘリングの説は、後にオストワルト表色系などの開発にも大きな影響を与えました。

赤の残像として緑、緑の残像として赤が見える、そして黄色と青においても同様である、という観察の結果から、ヘリングは網膜に「白-黒-物質」「赤-緑-物質」「黄-青-物質」という、それぞれ色が対をなした視物質のチャンネルが3つあると仮定し、それぞれの視物質は目から入った光によって、「異化」と「同化」という化学変化を起こすと考えました。
「異化」「同化」というのは、ここでは、光による科学物質の分解・合成を指し、「異化が」分解、「同化」が合成に対応しています。

「異化」は人の目に「白・赤・黄」の感覚をもたらし、「同化」は人の目に「黒・緑・青」の感覚を生じさせます。

光によって「白-黒-物質」が異化すると、人にはその色が「白」と感じられ、同化すると「黒」と感じられます。そして、「白-黒-物質」の同化と異化が一緒に起こると「グレー」が見えます。

また、たとえば
「赤-緑-物質」が同化することによる「緑」と、「黄-青-物質」が異化することによる「黄色」があわせて知覚されると、人はその色を「黄緑色」と認識する、あるいは反対に「赤-緑-物質」が異化することによる「赤」と、「黄-青-物質」が同化することによる「青」があわせて知覚されると、人はその色を「紫色」と認識する、といった具合です。

色覚の段階説

「ヤング=ヘルムホルツの三色説」と「ヘリングの四原色説」は、まったく違った学説ではありますが、両説の間には共通点もあり、統合される可能性があると指摘したのは、量子力学のパイオニア、波動方程式で有名な物理学者のエルヴィン・シュレーディンガー(本名:Erwin Rudolf Josef Alexander Schrödinger・1887年―1961年)です。
シュレーディンガーは、1925年に論文を発表し、「三原色説と四原色説は、いちじるしく違うようだが、三変数をもって色覚を表そうとする点では共通する」と指摘しました。
四原色説は、白・黒・赤・緑・黄色・青を仮定していることから、一見、六個の変数を含んでいるように思われますが、白黒・赤緑・黄青とそれぞれ対に考え相互に関連していることから、六変数ではなく実は三変数にすぎないと言っているのです。

現在では、生理学の発達により、網膜細胞の解明が進み「ヤング=ヘルムホルツの三色説」が仮定した赤・緑・青の錐体が明確になっており、網膜の神経組織のなかで、三原色説と四原色説の2つのシステムが両立すると考えられています。
これを「段階説」といって、科学者のエリオット・クインシー・アダムス (Elliot Quincy Adams・1888年―1971年)や心理学者のゲオルク・エリアス・ミュラー(Georg Elias Müller・1850年―1934年)などによって提唱されました。

「赤、緑、青」の三原色説と、「赤、緑、黄、青」の四原色説、どちらも違ったアプローチによる学説ですが、両説にはそれぞれ根拠があるため、昨今では、どちらの学説も含んだこの「段階説」が色覚理論において妥当と考えられています。

これは、光刺激を受け取る視細胞の第1段階では三色説に対応した光の処理機能が働き、視細胞以降の情報処理という第2段階では四原色説に相当する処理がなされて4色の色覚が生まれるという説です。

まだ謎に満ちた部分はあるものの、多くの仮説を経て、あらゆる研究結果によって私たちの脳がどうやって色を認識しているのかが解明されていることは素晴らしいことです。
脳、いわば心を捉えてゆく上で、視細胞の働き、色との密接な理解を深め今後の発展を期待しつつ、色のさらなる可能性を探求してゆきたいと思います。

コメントは利用できません。

もっと色のことを知りたい方へ

メルマガに登録する
テキストのコピーはできません。